2007年04月02日

脱ひきこもり支援「レンタルお姉さん」

高校1年生のときから10年間もひきこもっていた男性は、まるで“仙人”のようだった。伸ばし放題で腰まで届いた髪に、精気をなくした能面のような表情。払いのけてくれることを期待して男性のつめにマニキュアを塗ってみたりしたが、反応はまったくなかった。

「心と体が“仮死状態”。なにが彼をここまで追い込んだのか分からなかったし、見ているだけで悲しかった」

月1回のペースで男性の自宅を訪問したが、こちらの働きかけには相変わらず無反応。アニメを見るためのケーブルテレビを解約すると怒って暴れ出したが、その暴れたことが「感動的に思えた」ほどだった。

1年後。同じNPO法人に所属するスタッフが自分の人生を語ると、男性も涙を見せながら引きこもる前の人生を語り始めた。初めての「心の交流」。所用でその場に居合わせることはできなかったが、電話で受けた報告に涙が止まらなかった。

「生身の体験を何年も失っている仮死状態の人が、人間の自然治癒力で表情や感情をちょっとずつ取り戻していく。それはすごく感動的。お金に焦点を当てたら絶対にできない、心の底からうれしくて涙が出る仕事なんです」
全国に50万から100万人ともいわれる「ひきこもり」。自宅訪問などを通じて彼らが社会に一歩を踏み出す手伝いをするのが「レンタルお姉さん」と呼ばれる彼女の「仕事」だ。

広島の専門学校を出て、地元の島根県大社町(現・出雲市)で公共団体に就職した。「目の前にある仕事を淡々とこなしているだけ」の毎日。狭い田舎町を飛び出したくもあり、24歳、広島に舞い戻った。

イベントコンパニオンなどの職を転々とし、落ち着いたのは会員制高級ラウンジのラウンジホステス。華やかな夜の世界でナンバーワンに上り詰めたが、「お客にチヤホヤされるのは若いときだけ。ずっとやっていくことはできない仕事」と思っていた。なにより、全国を飛び回るビジネスマンとラウンジで話をしていると、より広い世界へ飛び出したくなった。

28歳でホステスを辞めた。「ラウンジの時代は『笑顔に癒されるし聞き上手』とお客に言われていた。だから、人に元気を与える仕事をしたかったけど、何をしたらいいのか分からなかった」。ヒントを求め、東京から福岡まで講演会を聞いて回った。NPO法人「ニュースタート」(千葉県浦安市)が、ひきこもりの青年らを連れて「四国お遍路」をするという新聞記事が目が留まったのは、そんなころだった。

ホームページを開いてみると、目に飛び込んできたのは「レンタルお姉さん」の文字。「うわぁ。なにこれ。やってみたい」。自分を生かせる仕事のような気がした。

レンタルお姉さんになって3年になる。17歳から42歳まで、45人のひきこもりを担当した。1月には「わたしはレンタルお姉さん。」(二見書房)としてその経験を出版し、今は訪問活動や講演会で全国を飛び回るなど「忙しいけど充実した毎日」を送っている。

「ひきこもっている子らはすごい生まじめでナイーブなんです。人間関係を重くまじめに受け止めていて、失敗は許されないと思っている。ひきこもりを単なる怠け者と決めつける社会のイメージは、絶対に違う」

失敗を極度に恐れるため、何かをしようとする際は頭の中で念入りにシミュレーションを繰り返す。中途半端を許せない。やるなら完璧(かんぺき)に。だがそんなパーフェクトな人間がいるはずもなく、だからこそ「最初の一歩」が踏み出せない。その延長線上にあるのが「ひきこもり」なのではないか。そう思った。

「ひきこもりの子は、親もまじめで価値観が狭い場合が多い。ひとつの生き方しか知らず多様な生き方を認めない」。そんな姿勢の親が「完璧な家族」を目指す。結果、家庭の「恥」を外に出すことを恐れ、子供が家から出られなくなっても家族だけで解決しようとする。

「まるで家族全体がひきこもっているみたい。他人の手を借りて、家庭全体の空気を変えた方がいいのに」

子供の自立を望みながら、一方で欲しがるゲームや漫画を次々と与えて「快適なひきこもり生活」を援助している。ひきこもりから脱するには勇気がいるが、子離れできない親は子供を突き放すことができない。「ひきこもっている子供よりも親に腹が立つことがある」こともしばしばだ。

一口にひきこもりといっても、その性格は十人十色。マニュアルがあるはずもなく、訪問しても居留守を使われることが多い。部屋のドア越しに2時間話しかけ続けたこともあれば、手紙をドアに挟んで帰ったこともある。

「たとえ会話ができなくても、物音などの無言のコミュニケーションは必ずある。だから、訪問することには絶対に意義がある」。ひきこもりたくてひきこもっている人はいない。社会とのつながりや人との交流を求めている。そのきっかけになることが「レンタルお姉さん」の仕事だと思っている。

「レンタルお姉さん」がひきこもりを救う「女神」のように呼ばれることには違和感を覚える。一方的に罵声(ばせい)を浴びせられたときや暴れられたときなどは、「一生ひきこもっていろよ」って思ってしまったこともある。怒鳴り返したこともある。

「やっぱり、レンタルお姉さんは女神ではなく、単なる『おせっかいなお姉さん』ですよ」
タグ:ひきこもり
posted by you at 05:49 | TrackBack(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/37514732

この記事へのトラックバック